4日前の夜、ワンコが永眠しました。
ワンコの闘病生活
ワンコは両目の視力を失い、4ヶ月前には心不全(僧帽弁閉鎖不全症)による肺水腫で入院し、なんとか回復して退院できたと思ったら、今度は首が捻れたような状態になってまっすぐ歩けなくなり、同じ場所をくるくる回ることしかできなくなりました。
そして1ヶ月前には首が完全に180度捻れてしまって、立ち上がることすらできなくなってしまいました。
病院では脳腫瘍の疑いがあると言われました。
ワンコは常に目がぐるぐる回っている状態で、平衡感覚が狂って天と地が逆さまのように感じているようでした。
それでも身体は元気だったので立ち上がろうとしては倒れ、また立ち上がろうとしては倒れの繰り返しで、一日中ドタンバタンと激しく暴れまわっていて、手足や鼻は擦り傷だらけで、目の角膜も傷ついて血が滲んでいました。
そうやって、自分で暴れまわって日に日にボロボロになっていくワンコの姿を、ただ見守ることしかできないことが辛くてなりませんでした。
獣医さんには、ワンコが暴れだしたら鎮静剤を飲ませて眠らせるようにと言われていましたが、ワンコが自分の意志で立ち上がろうとして頑張っているのに、無理やり眠らせるというようなことも私にはどうしてもできませんでした。
ワンコは気が狂って暴れているわけではなくて、立ち上がりたいという希望を持って頑張っているんだから、辛くても見守っていくしかないと思いました。
目が回っているため常に船酔いのような状態なので普通なら餌はほとんど食べられないはずなのに、うちのワンコはおだてに弱いので、餌を口の前に持っていって「ちゃんと食べられて偉いね、賢いね、すごいね、デキるワンちゃんだね」とおだてたら、頑張って口をあけて食べてくれました。
「普通はこの状態だと餌が食べられないので点滴に通ってもらわないといけないんだけど、この子はこんな状態でもちゃんと餌を食べるんですね」と獣医さんが驚いていました。
お別れの日
亡くなった日の朝も、ワンコはいつものようにおだてにのって餌をいっぱい食べました。
そして、落ちないように周囲を囲んだソファーの上でドタンバタンと何時間も立ち上がろうとして転げ回って暴れて、夕方頃には疲れ果ててソファーの隅っこですやすや眠り始めました。
ワンコが眠ったので、私はその間に買い物に行くことにしました。
その行き道に、ノウゼンカズラが花が咲いていました。
もうノウゼンカズラが咲く季節なんだ…
毎年ワンコと一緒にここに来て、このお花の写真を撮ったな…
ワンコはその間いつも私の足元でじっと待っていてくれて、写真を撮り終えて「よし行こう」という号令を出したら、待ってました、という感じでぴょんぴょん跳びはねながら嬉しそうに歩き出して…
あんなにお散歩が大好きなだったのに…
また立ち上がって歩きたいんだろうな…
だからあんなに傷だらけになっても、立ち上がろうとして毎日力尽きるまで頑張って…
なんとかしてもう一度歩かせてあげたい。
私は天に向かって「ワンコをどうか歩けるようにしてください」と願いました。
そんなこと無理だとわかっていても、そう願わずにはいられませんでした。
買い物をして部屋に戻ると、ワンコはまだソファーの隅っこで静かに眠っていましたが、私の気配に気がつくとすぐに目を覚まして、また立ち上がろうとして暴れ出しました。
でも、どういうわけかすぐに暴れるのをやめて、ハアハアと荒い呼吸をし始めました。
クーラーをしっかりかけているのに暑いのかな…と不思議に思いながらワンコの顔を覗き込んだら、半開きになっている口からだらりと出ている舌が青紫色になっていました。
また心不全?
でも、心臓の薬を毎日しっかり飲ませていたし、心臓の状態はすごくいいと獣医さんは言っていたし、心臓の状態が悪化したときに出る咳もまったくしていなかったのに、どうして急に…
ワンコはぐったりと横たわったまま苦しそうに息をしていましたが、突然思い立ったかのように腕を大きく振りかざして勢いよくぐるんと寝返りを打って、そのまま奇跡的にうまく立ち上がりました。
そこだけが無重力になっていて、ワンコの身体がふわっと浮き上がって立ったように私には見えました。
そのワンコの姿は、1ヶ月もの間ずっと180度捻れたままだった首がちゃんと正常な方向に向いていて、健康だった頃の体勢に戻っていました。
それを見て、もうダメなんだな…と私は思いました。
もう目が回っているとか、天と地が逆さまのように感じるとか、そんなことなんてどうでもいいぐらいの重大なことがワンコの身に起きているんだなと…。
1ヶ月ぶりに立ち上がれたワンコは満足そうな顔をしていました。
そして、すべての力を使い切ってしまったのか、ワンコの身体はくたくたっと布切れが舞い落ちるように倒れました。
すごいね。
立てたね。
ちゃんと見てたよ。
キミはやっぱりデキるワンちゃんだね。
ワンコは大きな目を見開いてハアハアと苦しそうな呼吸していましたが、その呼吸音が消えて、今度は空気を食べるように口をパクパクし始めました。
パク・・・パク・・・・・・パク・・・・・・・・・・・・・・パク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
口を開く間隔がどんどん長くなっていきました。
「これまでいっぱい一緒に散歩をしてくれてありがとう、いつも一緒にいてくれてありがとう。よくがんばったね、偉かったね」と私は声を掛けました。
そうしたら、突然ワンコの両手両足が全速力で走っているときのようにパタパタパタと激しく動きました。
どこかに向かって駆け出して行くような感じでした。
もうこれでお別れなんだね…
ワンコは最後に大きく口を開けてパクっと空気を飲み込んで、そのまま動かなくなりました。
死んじゃったの?
本当に逝ってしまったの?
私は思わずワンコの名前を呼びました。
そうしたら、ワンコはそれに応えるように、もう一度大きく口を開いてパクっとして、頑張って生きようとしてくれました。
呼び止めてごめんね…
もう疲れたよね…
もう頑張らなくてもいいから、自由に好きなところに走っていっていいからね。
「よし行こう」
その号令で飛び立っていったのか、ワンコはそのまま動かなくなって、永遠の眠りにつきました。
ついさっきまではいつも通りだったのに、心臓病が悪化したような兆候も何もなかったのに、思いがけない突然のお別れでした。
ワンコを歩けるようにしてくださいというようなお願いをしてしまったから、こうなったのかもしれない…と私は思いました。
その願いはこういう形でしか叶えられる方法がなかったから、こういう形で叶えられたのかもしれない…
もしそうなら、ワンコは今頃自由に歩けているよね。
毎日ワンコの痛々しい姿を見ていたので、これでワンコが楽になれたという安堵感が、お別れの辛さを緩和してくれました。
本当はもっともっと一緒にいたかったけど、もうワンコは充分に頑張ってくれたのだから、悲しいけど仕方がないと思いました。
16年も生きたんだから、もうゆっくり休んでいいよ。
よく頑張ったね。
偉かったね。
私は大きく見開いているワンコの目を閉じてあげました。
ワンコのいたずら
翌日、火葬をして、骨壷をワンコがいつもいたソファーの上に安置しました。
それからお供えのお花と花瓶を買いに行きました。
花瓶は少々のことでは倒れないような安定感があるものを選びました。
そして帰ってすぐに骨壷の横にその花瓶を置いて、お花を生けました。
それからその部屋の隣りにあるキッチンに食事を作りにいきました。
そのとき、カタッという音が聞こえました。
何の音かな…と思って部屋に戻ると、骨壷の横に置いてあった花瓶が倒れていました。
まだここにいたの?
もうキミは自由に歩けるんだから、いつまでもこんなところにいないで、広いところに行って元気に駆け回って遊んでおいで。
お散歩が大好きだったんだから、いっぱいお散歩しておいで。
キミと出会えて本当によかった。
いつもそばにいてくれてありがとう。
またいつかどこかで会おうね☆
キミとの出会いに、心から感謝します。
ありがとう。